ノート:心理学史
作成者:佐藤浩輔(@cosine_135)
心理学の起源
- 古代~中世:こころの概念
- ヒポクラテス Hipokrates 460-377 B.C.
- 四体液説:血液・粘液・黒胆汁・黄胆汁(エンペドクレスの四元素に対応)→ガレノスの気質説(多血質・粘液質・憂鬱質・胆汁質)へ引き継がれる
- 精気説:精気(pneuma, spirit)がこころの根源→アリストテレス・デカルトへ
- アリストテレス Aristoteles 384-322 B.C.
- 『魂について De Anima』 こころは生命と不可分:こころは身体を通じて具象化(cf. 質量(hyle)と形相(eidos))→経験論的・機能的原理
- 心の座は「心臓」(プラトンは「頭」)
- テオフラトス Theophratos 370?-288?
- 『人さまざま Charakteres』:最初の性格論
- アウグスティヌス Augstinus 354-430
- 『告白 Confessiones』:人間精神の考察
- トマス・アクィナス Thomas Aquinas 1225-1274
- 『神学大全 Summa Theologica』:アリストテレスを土台に心理学的思想を展開
- ヒポクラテス Hipokrates 460-377 B.C.
- 近代~現代:心理学の成立前夜
- デカルト R. Descartes 1596-1650
- 意識主義・生理主義の原点
- 生得説(プラトン的)
- 存在はモノとこころに別れる
- モノ:延長、こころ:思惟・内省(物心二元論)→アウグスティヌス的こころは人間にのみ経験される意識的事実、モノは自動機械のようなもの
- 心身相互作用:精神と身体は別々だが、人間有機体の中では相互作用が可能
- 動物精気(esprites animaux)説:Harveyの血液循環とGalenosの動物精気説を統合
- こころと身体の相互作用を媒介
- 脳の松果腺が精神現象の源泉。各部の神経との連絡に動物精気が通る。
- →イギリス経験論との対立
- デカルト R. Descartes 1596-1650
- 連合主義心理学(18世紀~) 経験説:意識・心理現象は観念の連合による
- ホッブズ T. Hobbes 1588-1679
- 『リヴァイアサン』:唯物論的機械観、全ての精神作用は感覚に還元可能
- ロック John Locke 1632-1704
- 『人間悟性論』:全ての観念は生まれてから得たものとその連合
- 経験説
- はじめは「白紙」の心:”tabula rasa”
- 外界に対する感覚と、内界の反省によって観念(idea)が発生する
- 観念連合説
- 心的過程は概念の分解と合成→精神化学的
- モリヌークス問題(Molineux’s question): 開眼した盲人が、目だけで球と立方体を区別できるか?
- 経験哲学者
- バークリー G. Berkeley
- 主観的観念論「存在することは知覚されていることである」
- 『視覚新論』:知覚の問題・奥行き知覚 モリヌークス問題:不可能
- ヒューム D. Hume
- 無神論・懐疑主義:一切の知識は経験に基づく「知覚の束」
- 『人性論』:経験は印象(impression)と観念(idea)により構成され、すべての観念は印象に基づく。連合の法則の定立。
- 観念の連合の法則:類似(resemble)、近接(contignity)、因果(cause and effect)
- ハートレイ D. Hartley
- 感覚は神経に伝わり大脳に達した振動である
- 『人間の観察』:生理的過程の考察「時間的接近」「頻度」
- J.S.ミル J.S. Mill
- 『人間精神現象の分析』(1849):連合主義。心的過程を論じる
- 感覚と観念を要素に、機械的な連合による説明(心的機械論)
- 『自由論』『功利論』
- 「心的化学」(mental chemistry)を提唱。複合概念は簡単概念の単純な和ではない
- 『人間精神現象の分析』(1849):連合主義。心的過程を論じる
- ベイン A. Bain
- 最後の連合主義者。神経生理学を連合心理学に取り入れる。
- 心理学雑誌 _Mind_を創刊
- スペンサー
- バークリー G. Berkeley
- ホッブズ T. Hobbes 1588-1679
- 感覚研究のはじまり
- 神経生理学(19世紀はじめ)
- ベル=マジャンディの法則:イギリスのベルとフランスのマジャンディによる。脊髄の神経が前根(ventral root)と後根(dorsal root)に分かれ、前者は運動性、後者は感覚性の神経に機能的に分化する
- 運動神経と感覚神経の区別
- 脳の中枢と脊髄中枢との区別
- 随意運動と不随意運動、反射との区別
- ベル=マジャンディの法則:イギリスのベルとフランスのマジャンディによる。脊髄の神経が前根(ventral root)と後根(dorsal root)に分かれ、前者は運動性、後者は感覚性の神経に機能的に分化する
- ヨハネス・ミュラー Johannes Müller 1801-1858
- 実験生理学の創始者
- 『人間生理学ハンドブック』(1833-1840):生理学の知見を集大成
- 広く心理学に言及
- 神経特殊エネルギー説:感覚は神経が何によって刺激されたかではなく、どの神経が刺激されたかによって決まる。各感覚受容器は感覚に特有のエネルギーを持っている→不適刺激をうまく説明できる
- ヘルムホルツ Hermann Ludwig Ferdinand von Helmholtz
- 物理学者・生理学者。感覚生理学の確立
- 『生理光学ハンドブック』(1856-1866)
- 色覚の三色説
- ヤング(1801):青・赤・黄が原色であり、対応する神経線維が網膜にあると仮定(翌年、三原色を赤・緑・菫に修正)
- ヤングの説を発展。三種の興奮特性を示す神経線維を想定→ヤングーヘルムホルツの三色説
- cf. ヘリング(Hering)の反対色説
- 色覚の三色説
- 『聴感覚論』(1863)
- 共鳴説:音の感覚という同一のモダリティであっても、高さや音色における感覚の違いは、刺激される神経線維それらの組み合わせの違いによるという説。内耳の蝸牛の基底膜は、手前から奥にかけて神経線維の長さが異なり、伝わる音の振動によって共鳴する線維が定まっている。これにより音高が弁別できる。
- 経験主義的。複雑な過程については感覚的な基礎過程と記憶の複合。または無意識的推理によって生じる→大きさ・明るさの恒常性を説明
- 『生理光学ハンドブック』(1856-1866)
- 物理学者・生理学者。感覚生理学の確立
- ヴェーバー E.H. Weber 1795-1878
- ライプチヒ大学の生理学者
- 触覚の弁別域の研究
- ヴェーバーの法則:人が感覚的に弁別できる最小の差異は原刺激の値に応じて比例的に変化する。
- ΔI/I=k
- ライプチヒ大学の生理学者
- フェヒナー G.T. Fechner 1801-1887
- フェヒナーの法則:ヴェーバーの法則の一般化・定式化
- E=k log I (kは定数)
- →感覚の強度Eは刺激の物理的強度Iの対数に比例
- 『精神物理学綱要』(1860):精神物理学的測定法の基礎
- 感覚と刺激の量的関係について述べる
- 精神物理学的測定法
- 極限法(最小可知差異法):丁度可知差異を前提に、標準刺激に対して連続して変化する比較刺激を実験者が呈示、異同の反応を求める。
- 恒常法(当否法):測定値が存在する範囲をあらかじめ定め、比較刺激をランダムに呈示。系列効果を除くことができる。
- 調性法(平均誤差法):標準刺激に対して変化する比較刺激を、上昇・下降量系列で反復して異同の反応を求める
- 測定内容
- 刺激閾:刺激の検出が可能である場合と不可能である場合の境目。絶対閾。
- 刺激項:刺激がそれに対応する感覚を生じさせる上限の刺激値。
- 弁別域:識別可能な刺激値。刺激の相違が検出できるかできないかの境目を丁度可知差異とも呼ぶ。
- 主観的等価値:標準刺激に対して比較刺激が等しいと判断されたときの値
- フェヒナーの法則:ヴェーバーの法則の一般化・定式化
- 神経生理学(19世紀はじめ)
心理学の成立
- ヴント W.M. Wundt 1832-1920
- 実験心理学の祖。1879年にライプチヒ大学に心理学実験室を創設 → 心理学の成立
- ヴントの心理学
- 形而上学と心理学の分離:経験可能なことがらを扱う
- 直接経験の学:「間接経験の学」である自然科学を補う学問体系
- 対象は意識:直接経験は個人の意識であるから、心理学の対象は意識。
- 意識主義・内観主義:直接経験である意識内容を内観法によって分析。感覚・知覚・感情の一部を対象とする。
- 構成主義:単純な心的要素を前提とし、要素と要素の連合によって意識的経験を構成
- 統覚による意思的な統合
- 『感覚知覚論への寄与』(1858-1862):実験心理学の提唱
- 『生理心理学綱要』(1873-1874):実験心理学の構想を具体化
- 心的要素・心的複合体:意識の分解によって見出されたものを心的要素、それらの結合を心的複合体と呼ぶ。連合は機械的な結合の様式であり、能動的・明瞭な結合の様式を統覚と呼ぶ。
- 創造的総合の原理:心的複合体は要素の単純な総和ではなく、固有の新たな性質を持つ
- 感情の三方向説:心的要素は簡単感情と純粋感覚からなるが、簡単感情は快-不快、興奮ー鎮静、緊張ー弛緩の3つの軸からなる3次元の空間で表される
- 心理学の実験化・体系化
- 内観法:実験的に統制されたなかで、自己の意識内容を組織的に分析→意識の自己観察
- 3つの課題:「意識過程を分析し、要素に分解すること」「要素の結合の様式を明らかにすること」「要素の結合の法則を定めること」→要素主義
- 『民族心理学』(1900-1920)
- 生理学的方法や内観の適用できない高次の精神活動を扱う。他民族の言語や神話、慣習の調査を通して、集団的な精神活動を探る。
- ヴントの貢献
- 心理学の確立・体系化
- 実験法の導入
- 構成主義→後のティチナーで確立
- 心理学者の養成
- エビングハウス H.E. Ebbinghaus 1850-1909
- 記憶の実験的研究『記憶について』(1885)
- 忘却曲線の発見
- アルファベットの無意味綴りを用い、節約法による実験的測定を行なう
- 記憶研究のその後
- G.E.Millerによる発展
- 有意味材料の研究:バートレット(Bartlett)の『想起過程』(1932)
- ヴントの同時代人
- 作用心理学
- ブレンターノ F. Brentano
- 作用心理学の祖:意識は何らかの対象を持つ「意識の内容を研究するのは現象学。意識の作用を研究するのが心理学」
- シュトゥンプ C. Stumpf
- Brentanoの弟子。ベルリン大学に実験室を作る:経験を現象と機能に分け、心理学は心的機能と現象との関連を研究する学問であるとした。
- ゲシュタルト心理学者の師匠。
- ブレンターノ F. Brentano
- ミラー G.E.Miller
- 実験家。ブレンターノ、シュトゥンプとともにヘルバルト、ロッツェの影響を受ける。ゲッチンゲン大学に心理学実験室を作り、実験心理学の一大中心地にする。
- ヴュルツブルク学派
- キュルペ Külpe
- ヴントの弟子。高次精神機能(思考・判断)を研究。
- 無心像思考:感覚内容のイメージをともなわない思考
- キュルペ Külpe
- 作用心理学
心理学の展開
- アメリカの心理学
- スペンサー(イギリス) H. Spencer
- 進化論を社会に適用した社会ダーウィニズムの提唱者。アメリカに影響を与える。
- ウィリアム・ジェームズ W. James
- アメリカ心理学の祖。生物学的志向、プラグマティズム。
- 『心理学原理』(1890)
- 手法:内観法(ただし自然の中での観察)。比較アプローチ。
- 意識の流れ:意識は断片ではなく、常に変化し続ける一連の流れ
- 機能主義→意識の構造ではなく機能を重視
- 心的過程と身体的過程:特に脳との関係を重視→情動の末梢起源説(ジェームズ=ランゲ説)
- ホール G.S. Hall
- アメリカ心理学のもうひとりの祖。進化論の影響のもと、心理学研究に取り組む。
- 発達心理学の祖。
- 児童心理の研究論文、『青年期』(1904)、『老年期』(1922)を表し、児童心理学、青年心理学、老年心理学に先鞭をつける。
- 機能主義心理学
- シカゴ学派:デューイ J.Dewey(プラグマティスト、教育家)、エンジェル J.K. Angell(機能主義の確立、ワトソンの師匠)
- コロンビア学派 キャッテル J.Mc. Cattel(個人差研究、メンタルテストの開発、品等法の開発、Psychological Reviewの創刊)、ソーンダイク、ウッドワース R.S. Woodwarth (動機づけを重視。本能にかわり動因を提案、Allportに影響)
- スペンサー(イギリス) H. Spencer
- アメリカ以外の展開
- 形態質の研究
- エーレンフェルス C. Ehrenfels
- 形態質(ゲシュタルト性質)を提唱:全体を構成する部分や要素は変わっても、ひとつの全体はあるまとまりとしての性質を持つ
- エーレンフェルス C. Ehrenfels
- 実験現象学アプローチ:現象をあるがままにとらえ、その本質的条件を実験的に解明
- ルビン E.J. Rubin
- 図と地に関する研究
- 視野の中で、周囲から浮き上がり、形を持っているような領域を図、その背景に見える領域を地という。図は形をもつが地はもたず、図は観察者にとって近く定位され、印象的かつ優性
- 図地反転図形:「ルビンのつぼ」
- 図と地に関する研究
- カッツ D. Katz
- 色彩の見え方の研究
- イェンシュ E.R. Jaensch
- 直観像:過去の視覚的印象があたかも知覚のように外部に投影される現象
- ルビン E.J. Rubin
- ゲシュタルト心理学
- 要素観・恒常仮定の否定
- 「ゲシュタルト」概念の提出:要素に還元できない、全体としてのまとまりから醸し出される構造的特性。要素は全体の中でどのように位置づけられ、どのような役割になるかによって性質が変わる。
- ヴェルトハイマー M. Wertheimer 1880-1943
- 運動視の知覚実験:実際運動と仮現運動→ゲシュタルト心理学の出発点(1912)
- 仮現運動:存在しない刺激対象を知覚→「要素が一対一で対応すると」いう恒常仮定に反する現象
- 局所的な興奮が周囲に波及する周辺効果
- β運動:2つの静止刺激を適当な時間間隔で継時的に短時間ずつ呈示した場合に、静止した2刺激間に往復運動が知覚される現象
- φ現象:実際の運動と区別がつかないほどなめらかな仮現運動(最適時相)。これより短い時間間隔では同時(同時時相)、長い間隔では断続(継時時相)して見える。
- ゲシュタルトの基本原理
- 近接の法則:点が互いに接近しているため、全体が線として知覚される
- ・・・・・・・・
- 連続の法則:2つの直線が交差しているように見える
- 十
- 類同の法則:似ているもの同士がまとまって見える
- x x x o o o
- 閉合の法則:欠けている部分が隠れているか、欠けていると思われる
- プレグナンツの法則:左右対称であったり、単純・安定している場合に「よい」状態あるいは「適切である」と知覚される
- 「場」における相互依存事象同士が力学的に影響し合い、全体として「より良い」体制下に向かって知覚される
- 図と地の錯覚:図と地について、視覚が曖昧な手がかりしか使えない場合、2つの図が交代して表われる
- 近接の法則:点が互いに接近しているため、全体が線として知覚される
- 仮現運動:存在しない刺激対象を知覚→「要素が一対一で対応すると」いう恒常仮定に反する現象
- 運動視の知覚実験:実際運動と仮現運動→ゲシュタルト心理学の出発点(1912)
- ケーラー W. Köler 1887-1967
- 『類人猿の知能試験』(1917)
- 類人猿の問題解決行動:試行錯誤だけではなく、場面の全体的行動に即した「見通し的」行動(洞察学習)→刺激と反応の機械的結合ではない
- 回り道:一見解決から遠ざかるように見えて、実際は有効性の高い手段を選択すること
- 移調:個々の刺激の絶対的な性質ではなく、刺激間の関係性を知覚できること
- 『物理的ゲシュタルト』(1920):心理物理同型説
- 「現象的ゲシュタルトには対件として中枢における生理/物理ゲシュタルトが同型的に対応する」←場の理論
- 『類人猿の知能試験』(1917)
- コフカ K. Koffka
- ゲシュタルト心理学を英語圏に紹介。Kölerの同型説を取り込みつつも現象や行動の世界の分析を重視。知覚、記憶の実験の他、精神発達の分野にもゲシュタルト理論を適用。『ゲシュタルト心理学の原理』で理論を体系化。
- コルテの法則:φ現象の成立に関する法則。刺激間の距離をs、呈示時間と間隔を合わせた時間をg、刺激の強度をiとしたとき、Φ=f(s/ig)で表される。コルテの研究をもとにコフカが定式化。
- レヴィン K. Lewin
- ゲシュタルト心理学の「場」の構想を空間や集団行動にまで拡張
- 集団力学(group dynamics)の創始者→社会心理学に影響
- 形態質の研究
精神分析
- 前史
- 古代:精神病は聖なる病
- ヒポクラテス:脳の不調和による自然の病。メランコリー、マニー、鬱病、パラノイア、ヒステリー(子宮と関連)
- 中世:迷信と魔術
- 近代:
- ピネル D.Pinel
- 精神病者の解放(1793)
- メスメル F.A. Mesmer
- 催眠現象を医療に応用(Mesmerism)
- 磁気による説明:動物磁気(1766)
- 催眠現象を医療に応用(Mesmerism)
- ブレイド J.A. Braid
- 催眠現象を科学的研究の対象に
- 神経による説明:『神経催眠学』
- hyponosis (催眠) という言葉が初めて使われる
- Braidismと呼ばれる(Mesmerismに対応)
- リエボーやシャルコーへ影響:精神医学への関心の高まり →その後ジャネ、ビネ、フロイトへ
- ピネル D.Pinel
- 古代:精神病は聖なる病
- フロイト S. Freud 1856-1939
- ウィーン大学にて生理学をブリュッケ、心理学をブレンターノに学ぶ。精神科医として、ブロイアのもとで修行、一時フランスに留学し、シャルコーに師事。
- 『ヒステリーの研究』で精神分析学の一歩を踏み出す(1895)
- 初期:催眠下の対話による抑圧経験の探究と、その浄化(カタルシス)による療法
- 後期:自由連想法を用いる
- 汎性欲説:性的動機(リビドー)を重視
- 『夢判断』(1900):抑圧されたリビドーが意識に登ろうとして夢の中に現れる→意識主義から無意識の探究へ:後のdynamic psychologyへ
- アドラー・ユングなどに分派
- 精神力動学的観点
- 意識・前意識・無意識
- 意識:覚醒時の認識
- 前意識:境目・夢の記憶・言い間違い
- 無意識:ひそかな願望・トラウマ
- リビドー:生まれながらにして持つエネルギー、パーソナリティの中心
- イド・エゴ・スーパーエゴ
- イド:生まれつき備わったもの。快楽原則で動く
- エゴ(自我):現実的に生きていくために現実原則で動く。イドと同様に利己的だが、時折イドと闘う。
- スーパーエゴ(超自我):社会的良識、道徳の番人。イドとエゴを監視。
- 精神-性的発達段階
- 口唇期(0~2):本能的に「吸う」。口から満足を得る。
- 肛門期(2~3):快楽の中心が肛門。トイレット・トレーニングの時期(適切な時と場所でトイレに行く)
- ものをあきらめる、規則に対する反応
- 固着:捨てるのを嫌がる(肛門保持)、時間への執着、整理整頓
- 男根期(3~6):自分の性の自覚(エディプス・コンプレックス/エレクトラ・コンプレックス)
- 母親への欲望→去勢の恐怖→父との同一視(スーパーエゴの発達)
- 防衛機制
- 抑圧:好ましくない考えを無意識の中に押し込める
- 退行:幼年期に戻る
- 置き換え:リビドーを他の活動に転じる→昇華:健全な置き換え
- 否認・投影
- 意識・前意識・無意識
- アドラー A. Adler
- フロイトに反発。性欲よりも優越欲を重視。劣等感とその補償作用が人間の原動力
- ユング C.G. Jung
- フロイトに反発。リビドーをより広い生命エネルギーと解釈。人間の精神生活を絶えざる自己実現の努力とみなす。
- リビドーの向性による性格類型:内向性と外向性
- 元型・集合的無意識
個人差の心理学
- 成立前夜
- ベッセル F.W. Bessel :天文学者。個人の観測バイアスを修正する個人方程式を提出
- ガル F.J. Gall:骨相学。脳の機能局在を提案。
- ロンブローゾ C.Lombroso :犯罪人類学。犯罪者特有の身体的特徴
- シャルコー J.M.Charcot: ヒステリー、催眠術に関する研究。門下にビネー、フロイト。
- ダーウィン C.R. Darwin:進化論、突然変異:個体差の研究
- ゴールトン F.Galton
- 『天才と遺伝』:優生学の提唱
- 『人間能力とその発達の研究』
- メンタルテストの提唱。パフォーマンスに注目。多人数に適用。
- 統計的手法の導入:正規分布、相関の概念、回帰効果の発見
- 手法:質問紙法、言語連想法、双生児法
- 発達研究
- ビネー A. Binet
- 個人差の心理学→教育。医学・人類学への応用
- 「異常者の知的水準診断の新手法」(1905)
- ビネ=シモン式知能測定法を開発。知能の水準を測定し、正常児か精神遅滞児かを調べる。(IQは後のW.Sternの発案(1912))
- ピアジェ J. Piaget
- 認知機能の発達段階説:観察・記録・臨床的問答
- 感覚運動期(0-2)
- 感覚と運動を通じて環境について学び、コントロールし始める。反復が重要
- 生後八ヶ月ごろから、対象の永続性に気付く
- 前操作期(2-7)
- 言語習得の開始:他者にものが異なって見えることを理解しはじめる(e.g. 三つ山課題)
- 具体的操作期(7~11)
- 目に見える(具体的)ものに対して精神作業(操作)が行なわれる。
- 数の保存性(6歳頃): 配列の変化の実験
- 物質量の保存性(9歳頃): 粘土の変形の実験
- 体積の保存性(9歳頃): 液体の容器を変える実験
- 目に見える(具体的)ものに対して精神作業(操作)が行なわれる。
- 形式的操作期(12~)
- 抽象的概念を用いて精神的作業ができる e.g. 振り子の実験
- 感覚運動期(0-2)
- スキーマ理論
- 概念の枠組みと発展:同化と調節を通して環境へと適応
- 同化:取り入れること
- 調節:変化させること
- 大人の場合
- 再認:環境を取り込み、いつもと変わらないことを確認
- 学習:新しい情報を付け加え、今ある知識を変えていく
- 概念の枠組みと発展:同化と調節を通して環境へと適応
- 遊び理論
- 遊び:同化に伴う適応的行動
- 模倣:他の人を真似て調節
- 遊びの三段階
- 機能行使の遊び:感覚運動的な遊び。行動の反復。
- 象徴遊び:象徴を用いた空想遊びや役割遊び
- 規則遊び:遊びの中で規則を用いる
- 道徳理論
- 道徳の発達
- 小さい子:他律的であり、結果によって善悪を判断する
- 大きい子:自律的であり、行為の意図によって善悪を判断する
- 道徳の発達
- 幼児期の認知と思考の特色:自己中心性
- 発生(genesis)と構造(structure)を総合的にとらえる
- 認知機能の発達段階説:観察・記録・臨床的問答
- ビネー A. Binet
- 知能研究
- ゴダード H.Goddard:ビネーの知能検査をアメリカに紹介。単一知能的な考え方。
- ターマン L.M. Terman:スタンフォード式改訂ビネー=シモン知能検査を開発。IQを実用化。
- ヤーキス R.M. Yerkes:アーミー・テスト(集団方式の知能テスト)を作成
- α式:言語性 β式:非言語性
- ウェクスラー D. Wechsler:知能を診断的にとらえるための検査を開発。偏差IQを導入。6種類の言語性検査、5種類の動作性検査からなる。
- WAIS:成人用
- WISP:児童用
- WPPSI:幼児用
- 知能因子
- スピアマン C.E. Spearman:知能の二因子説:一般知能因子gと特殊因子sから知能がなる
- サーストン L.L.Thurstone:多因子説:7つの基本的精神能力因子(PMA)から知能がなる
- ギルフォード J.P.Guilford:構造モデル。内容・操作・所産の3次元から知能がなる
- 人格研究
- 愛着タイプ
- 愛着:特別の対象に対する特別の情緒的結びつき
- ストレンジ・シチュエーション法(Aindsworthら)
- ボウルビィのアタッチメント理論にもとづき、母子間の情愛的結びつきの質の違いを観察、測定するために開発した手法。
- A群:分離で泣かず、再会でも反応が薄い
- B群:分離で泣き、再会で安心
- C群:分離で泣き、再会で怒り
- ボウルビィのアタッチメント理論にもとづき、母子間の情愛的結びつきの質の違いを観察、測定するために開発した手法。
- 認知スタイル
- 熟慮/衝動型(ケイガンら):MFFTを使用
- 反応が遅いが誤りは少ない熟慮タイプと、反応が早いが誤りは多い衝動タイプ。
- 場依存/場独立型(ウィトキンら):垂直知覚課題
- 視覚的な場に依存する人と、自らの身体を手がかりとする人
- 適正処遇交互作用(ATI)
- 適性によって、処遇の効果が異なる(e.g. 言語性知能の高さと、文法訳読式教授法の効果)
- 熟慮/衝動型(ケイガンら):MFFTを使用
- パーソナリティの類型論
- ヒポクラテス 四体液説
- 黄胆汁 胆汁質 火 怒りっぽい・短気
- 黒胆汁 憂鬱質 地 憂鬱
- 粘液 粘液質 水 活動力ない・無感動
- 血液 多血質 風 快活・活動的・楽天的
- クレッチマー(1921)の体格と性格
- やせ 分裂気質 非社交的・無関心・用心深い
- 肥満 躁鬱気質 社交的・親切・ユーモア
- 闘士 てんかん気質 粘り強い・粘着・怒りっぽい
- シェルドン 体質論
- 内胚葉型 内臓の発達→内臓緊張型:享楽・愛情・依存
- 中胚葉型 筋骨の発達→身体緊張型:自己主張・精力的・直接的
- 外胚葉型 感覚・神経の発達→神経緊張型:抑制的・積極的に対人関係に入れない
- ユング 内向と外向
- 思考-感情、感覚-直観の2軸の組み合わせで類型
- シュプランガー 価値志向性による分類(哲学的)
- オルポート 人格心理学:共通特性と個別特性
- ヒポクラテス 四体液説
- パーソナリティの特性論:特性をパーソナリティ構成の因子とみなす
- キャッテルの性格因子
- アイゼンクの性格3次元:外向性・神経質・精神病質
- 愛着タイプ
行動主義
- 生物科学の影響(行動主義成立まで)
- 18世紀末
- ゲーテ、エラスムスにも生物進化の考え
- ラマルク J.B. Ramarck
- 進化に関する最初の体系的学説
- 獲得形質の遺伝説(1809)→スペンサー、マクドゥーガルに影響
- ダーウィン C.R. Darwin 1809-1882
- 『種の起源』(1859)
- 自然淘汰による進化論(マルサス『人口論』により着想)
- 適者生存
- 『人間と動物における情動の表出』(1872)
- 動物の性質を人間との連続性の観点からとらえなおす
- 『種の起源』(1859)
- ロマーネス G.J. Romanes
- 『動物の知能』(1882):比較心理学の成立
- 種々の動物行動の観察記録
- 問題:逸話的であり、動物をヒトになぞらえる擬人化の傾向
- 『動物の知能』(1882):比較心理学の成立
- モーガン C.L. Morgan
- モーガンの公準:「低次の心的能力で解釈できる事実を高次の能力の結果として解釈してはならない」(『比較心理学入門』, 1894)
- ロエブ J. Loeb
- 走性/向性(tropism)の説(1890):動物の行動を機械論的に説明
- ユクスキュル J. von. Uexküll
- 神経系の専門用語に主観的・心理的用語を用いないよう提案(1899)→生物学における客観主義の流れ
- ソーンダイク E.L. Thorndike 1874-1949
- イヌ・ネコ・ニワトリの学習過程の研究(問題箱)
- 『動物の知能』(1898)
- 試行錯誤学習:異なる行動同士の偶然の結びつき(結合主義)が強化をもたらす。
- 効果の法則:試行錯誤学習において、成功は満足と強化、失敗は不満をもたらす。
- →動物を用いた実験室研究が米国心理学の特徴
- 動物(比較)行動学
- フリシュ K.Frisch: ミツバチの研究。8の字ダンス
- ローレンツ K.Z. Lorenz 1903-1949:刷り込みの発見。攻撃衝動の累積仮説。
- ティンバーゲン N. Timbergen 1907-1988:
- 生得的解発機構:生まれつき備わった、特定のサイン刺激に対して反応させる生理的な仕組み
- 本能行動を引き起こす信号刺激(解発、触発)を明らかに
- ティンバーゲンの四つのなぜ:質問と説明の四領域
- e.g. 「Q. なぜ生物は目が見えるのか?」
- 至近要因
- 個体発生 / 発達 「個体発生の過程で眼が形成されるため」
- 機構 「眼がものを見るのに適した機構を持っているため」
- 究極要因
- 系統発生 / 進化 「特定の進化の過程で目が形成されたため」
- 機能 / 適応 「目は食べ物を見つけ危険を回避する助けになるため」
- パヴロフ I.P. Pavlov 生理学者。条件反射と古典的条件づけ
- 古典的条件づけ
- 無条件刺激(e.g.えさ)を条件刺激(中性刺激。e.g.ベルの音)を対呈示:条件刺激のみで無条件刺激の反応(反射)が生じる→条件反射
- 学習の消去:条件刺激のみを与えていると、条件反射がなくなっていく
- 自発的回復:しばらく時間をおいてから条件刺激のみを与えると条件反射が再開
- 般化:似たようなものに対しても条件反射が生じる
- 弁別:似たような刺激を区別して反応するようになる
- 古典的条件づけ
- 18世紀末
- 行動主義の成立
- ワトソン J.B. Watson
- 行動主義の創始(1912, コロンビア大学講演)
- 「行動主義者の見た心理学」(1913)
- 心理学の対象は客観的に観察できる「行動」:内観法の排除、心的概念の排除、行動は刺激に対する反応、心は行動の随伴的現象
- 刺激と反応を中心とするS-R心理学→動物とヒトを含めた行動の統一的図式を目指す
- 環境主義
- 客観的かつ実験的
- ロシアの反射学の影響:
- パヴロフ、ベヒテレフの研究にヤーキーズが着目
- ワトソンも条件反射を学習の基本原理として導入(1916)
- 実績:恐怖条件づけ(アルバート坊やの実験)
- 問題点:反応を末梢部に還元する分子的(molecular)な考え方→これを補う全体的(molar)行動などに向かう流れ
- 「行動主義者の見た心理学」(1913)
- 行動主義の創始(1912, コロンビア大学講演)
- ワトソン J.B. Watson
- 新行動主義
- 新行動主義に影響を与えた三つの思想的立場
- 論理実証主義
- 操作主義
- ゲシュタルト心理学
- トールマン E.C. Tolman
- 認知的行動主義
- 独立変数と従属変数の間の仲介変数を仮定
- サイン・ゲシュタルト:環境の刺激対象を手段・目的関係のネットワークに組み込まれた手がかりとしてみなす
- →目的的・全体的な過程
- 『動物と人間における目的的行動』(1932)
- 認知的要因を重視(認知地図)
- 認知的行動主義
- ハル C.L. Hull 1884-1952
- 行動の数量的法則化と演繹的体系化
- ワトソンの「刺激と反応」、パヴロフの条件反射の考えを引き継ぐモリヌークス問題
- 仮説演繹的方法、ハルの公準、動因低減説、習慣
- 動因低減説:ホメオスタティックな不均衡を解消するために要求・動因が生じ、その解消が行動を強化する要因である。
- →スペンス:誘因動機付け理論(クレスピ効果)に発展
- 『行動の原理』(1943)『行動の体系』(1952)
- スキナー B.F. Skinner 1904-1990
- オペラント条件づけ:外的刺激によって誘発されるレスポンデント条件づけに対し、生活体の側から自発(emit)する行動と結果によって生じる学習
- 部分強化:時折報酬を与える
- 強化スケジュール:変比率>定比率>定間隔
- 三段階訓練法:目標の明示→開始の明示→望ましい方向への正の強化
- トークン・エコノミー:代用通貨を与えて報酬と交換させる
- 新行動主義→行動学behavioristicsに一般化
- オペラント条件づけ:外的刺激によって誘発されるレスポンデント条件づけに対し、生活体の側から自発(emit)する行動と結果によって生じる学習
- 新行動主義に影響を与えた三つの思想的立場
認知心理学の成立
- 心理学における「意識」
- ヴント:意識内容の研究
- ワトソン:内観法・心的過程を批判
- 新行動主義・ゲシュタルト・発達:行動主体の内的過程を重視
- →意識の復権:認知(cognition)の時代へ
- 情報学の登場
- フォン・ノイマン J. von Neumann
- プログラム内蔵式コンピュータ
- ウィーナー N. Wiener
- 『サイバネティクス Cybernetics』(1948)
- シャノン C.E. Shannnon
- 『通信の数学的理論 A Mathematical Theory of Communication』(1949)
- コンピュータのアナロジー:
- 生体にとっての刺激→内部処理→反応 コンピュータにとっての入力→情報処理→出力
- 生理学的構造と心理学的機能:ハードウェアとソフトウェア
- フォン・ノイマン J. von Neumann
- 認知心理学の先駆け
- 1956年
- G.A. Muller:マジックナンバー7±2
- Newell & Simon: ロジック・セオリスト
- Chomsky:「言語の3つのモデル」
- Bruner:『思考の研究』
- 情報を処理する存在としての人間:モデル化、シミュレーション
- ブロードベント(Broadbent):記憶の情報処理モデル(1958)
- ブルナーら(Bruner et al.):概念学習方略
- ミラーら(Miller et al.):TOTE(Test-Operate-Test-Exit, 1960)
- ニューウェルとサイモン(Newell & Simon):GPS(General Problem Solver)
- チョムスキー(Chomsky):生成文法(1957)
- それまでの認知の位置づけ
- Bartlett スキーマ理論
- J. Piaget 認知発達研究
- 1956年
- 認知心理学の成立
- ナイサー(Neisser):『認知心理学』(1967) →今日の認知心理学の成立
- 背景
- 1.行動主義の限界
- 心的過程の介在の必要性 e.g. Tolmanの研究
- 種固有の行動様式の存在
- 意識過程の重要性
- 実験室外での説明が不能
- 2.情報科学の登場
- 注意研究
- C.Cherry(1953):カクテル・パーティ効果の研究
- Broadbent :注意のフィルターモデル
- 注意研究
- 3.神経生理学の発展
- 1860~ P.Broca(1861)、Wernicke(1874)の失語症の報告
- 1960~ N.Geschwind 大脳半球の解剖学的非対称性の指摘
- Sperry, Gazzanigaらによる分離脳の実験
- 4.コンピュータの進歩と人工知能研究
- Production System(PS)モデル
- TOTE: Test-Operate-Test-Exit
- GPS: General Problem Solver
- ACT: Adaptive Control of Thought
- Soar: State operater and result
- Paralell Distributed Processing(PDP)モデル
- 並列分散処理
- Production System(PS)モデル
- 1.行動主義の限界
- 認知神経科学
- ヘッブ(D. Hebb):神経生理学的モデル(cf. ラシュレー)
- オルズ(J. Olds):ラットの視床下部を電気的に刺激
- ヒューベル(D.H. Hubel)とウィーゼル(T.N. Wiesel):ネコ・サルの視覚皮質ニューロンと刺激作用の関係
- マー(D. Marr):計算論的神経科学
- 三つのレベルの脳の理解
- 計算理論
- アルゴリズムと表現
- ハードウェアによる実装
- 三つのレベルの脳の理解
- G.A.ミラー、コスリン、ガザニガ:『認知神経科学』
- その他
- 社会的学習理論(ロッター・バンデューラ)
- 代理学習/観察学習:他者の行動を観察し、その結果をみることで学習→モデルの行動を模倣
- 社会的学習理論(ロッター・バンデューラ)